1969年、ミニはMkIIIへとモデルチェンジする。外観上はこれまでのMkIIと大きく変わらないように見えたが、ほぼ全ての部分に手が加えられ、フルモデルチェンジと言ってもいいほどの大改革だったのだ。
ボディパネル、ドア構造を一新、見た目はミニだが中身は別物
1969年に登場したMkIIIは、どこから見てもミニのままだが、実はほとんどの部分に手が加えられていた。
ボディは見た目こそ変わっていないが、ボディパネルの鋼板をこれまでより薄くしている。具体的にはMkIIまでは厚さはが1mmだった鋼板を0.8mmへと変えたのだ。
これらは鋼板の使用量を削減してコストダウンと同時に軽量化につながるだけでなく、プレス金型の長寿命化によりコストダウンに貢献した。乗降性を高めるためにドアは上下方向に拡大され、ルーフパネルのすぐ下まで広げられた。それに合わせてリアクォーターウインドウも切り上げられた。

そんなことよりも注目すべきは、サイドウインドウがスライド式から巻き上げ式へと改められたことだろう。これによってウインドウの開閉がスマートになっただけでなく、ウインドウガラスが全て下げられるので、走行風が室内へと流れ込みやすくなった。
イシゴニスはミニの設計時、ドアパネルをアウタースキンのみとし、ドアトリムを直接貼り付けて内側を大きく抉った構造とすることで、室内幅を最大限に取れるよう工夫していた。しかもボトムには大きなドアポケットを与え、収納力も高めていたのだが、それを実現するためのスライドウインドウが不評だったのだ。
現代風にリファインされたのは、エンブレム類もであった。MkIIの凝ったものから簡素化され、その代わりにフロントフェンダーのスカットルにブリティッシュ・レイランドのエンブレムも取り付けられた。

グレードは850をエントリーモデルとして、上級モデルとしてMkII同様1000ccも用意された。クーパーSは高性能モデルとして1275ccのみ用意され、1000ccのクーパー(通称スタンダードクーパー)も廃止された。
しかも厳密にはクーパーSのエンジンもMkI時代とはかなり中身が変更されている。最高出力などのカタログスペック面では遜色ないが、クランクシャフトはクロモリ鋼のEN40Bからマンガンモリブデン鋼のEN16に変更された。それでも鍛造製でタフトライド加工により表面硬度を高めるなどの処理が施された。
鍛造製だったロッカーアームも鋼板プレス製にコストダウンされた。しかし、通常のミニ用A型エンジンに使われるロッカーアームと比べれば、それでも十分に軽量なモノが使われている。 ピストンやコンロッドもワンランクはグレードを落としているだろう。
高性能モデルとはいえ、レース参戦を前提としたMkI/MkIIほどのポテンシャルは、MkIIIではオーバークオリティだとも言えたからだ。

それでもクーパーSはハイドロラスティックサスペンションとパワフルなエンジンで依然として高い人気を誇っていた。しかし残念なことにMkIIIクーパーSはわずか2年間で生産を終了してしまう。正確な生産台数は分からないが、1600台に満たないと言われており、現存するクルマはMkIクーパーSよりもずっと少ないのである。