クラシックミニといえば、そのキュートなスタイルやゴーカートのような操縦感覚で、今も多くのファンに愛され続ける英国車の名作です。その心臓部を担っていたのが、かの有名な「A型エンジン」。本稿では、この小さくも奥深いエンジンについて、その歴史から技術的特徴までをじっくり解説していきます。
■ A型エンジンの誕生と歴史的背景
A型エンジンの起源は、1951年に遡ります。当時のオースチン社が、戦後の大衆向けコンパクトカー開発のために設計したのがこのA-Seriesです。最初に搭載されたのは、オースチンA30。排気量は803cc、OHV(オーバーヘッドバルブ)方式の直列4気筒エンジンでした。
その後、1959年にミニが登場。FF(前輪駆動)レイアウトで室内空間を最大化するため、エンジンとトランスミッションを縦に重ねる「二階建て構造」が採用され、A型エンジンはこの斬新なレイアウトに合わせて再設計されることになります。
以来、ミニの生産終了となる2000年まで、実に40年以上にわたってA型エンジンはローバーミニをに搭載され続けました。

■ 技術的な特徴:簡素ゆえのメンテナンス性と個性
A型エンジンの基本構造は、極めてシンプルなものです。したがって堅牢で長く使い続けることができました。
プッシュロッド式バルブ機構のOHV方式は1シリンダーあたり2バルブの燃焼室で、ブロックとシリンダーヘッドは鋳鉄製。燃料供給装置はサイドドラフト型可変ベンチュリー構造のSUキャブ(後期はインジェクション)でした。
現代のエンジンのようにDOHCやVVT(可変バルブタイミング機構)のような複雑なバルブ駆動や機構は一切なく、構造は非常に保守的。それゆえに耐久性と整備性に優れ、自分で整備やチューニングを楽しむユーザーにも人気が高い理由です。
また、エンジンオイルがトランスミッションと共用である点もミニならでは。このレイアウトは省スペースには貢献する一方で、潤滑性能の確保やオイル管理にはシビアな一面もあります。
A型エンジンのバリエーションは豊富。800ccから1300ccまで多彩な展開がされました。
ミニに搭載されたA型エンジンは、さまざまな排気量で展開されました。主なラインナップは以下の通りです。
848cc:初期ミニ(Mk1~2)に多く搭載。ローギアードなトランスミッションと組み合わされ、軽快さ重視のモデル。
998cc(通称1000cc):1000クーパーや中期以降のスタンダードモデルに多用。なお初期のクーパーの排気量は997ccでした。
1098cc:ややトルク重視の上級グレード向け。ミニ1100、ミニの兄貴分にあたる4ドアセダンのADO16シリーズに搭載されました。
1275cc:クーパーSなどスポーツ志向モデルに搭載。最終世代のインジェクション車にも使われました。
1275ccはA型エンジンの中でもっともパワフルで、特にツインキャブ仕様(90ps以上)やレースチューンされたものは驚くべき性能を発揮しました。
■ 進化の流れ:キャブからインジェクションへ
当初はSUキャブレター(1~2基)を採用していたA型エンジンですが、1992年以降は排ガス規制の影響もあり、電子制御インジェクション(SPI→MPI)へと移行していきました。
SPI(シングルポイントインジェクション):1基のインジェクターで燃料噴射を行う。初期のインジェクション仕様。
MPI(マルチポイントインジェクション):2本のインテークマニホールドそれぞれにインジェクターが付き、より効率的な燃料供給が可能に。最終モデル(1997年以降)の欧州仕様に搭載。
この過程でエンジン制御ユニット(ECU)や各種センサーも導入され、ミニのA型エンジンも少しずつ“現代化”されていきました。ただし構造の根本はOHV時代のままであり、その「古さ」がむしろ魅力となっています。
■ A型エンジンが愛され続ける理由
A型エンジンは、決してハイテクでもパワフルでもありません。現代の感覚で言えば、燃費も良くないし、メンテナンスにも手間がかかる部類でしょう。
それでもなお、多くのミニファンがこのエンジンに魅せられています。それは、エンジンから伝わる“機械らしさ”や、“味わい深い鼓動感”があるからです。
半世紀以上にわたって愛され、いまも多くのミニのエンジンルームで鼓動を響かせているA型エンジン。まさに英国自動車史に名を刻む“名機”と呼ぶにふさわしい存在と言えるでしょう。
