クラシックミニのオーナーに人気の高いカスタムがビンテージ仕様。これはインジェクションミニやキャブクーパーなど比較的高年式のミニを1960年代から70年代の仕様に内外装を近付けるもの。
特に初期のミニであるMkIは、柔らかい曲線のフロントグリルや優雅なエンブレムでクラシックな雰囲気が一層引き立ち、人気が一際高い。しかも当時はモーリスとオースチンの2つのブランドで販売されており、エンブレムくらいの違いとはいえ、それがまた雰囲気が変わって好みが分かれるこだわりポイントであったりするのだ。
こうしたビンテージ仕様の製作に強いミニ専門店が愛知県・小牧市のセブンカーズだ。豊富な知識と技術力には定評があり、ビンテージ仕様には一家言もっている青木社長。


「最近はMkII仕様も同じくらい増えていますね。あとは外装の変化が少ないMkIII仕様も手軽にビンテージ仕様が楽しめると人気です」。と、相変わらずのビンテージ仕様人気を語ってくれる。
「ドアについては、どこまでやるかがポイントですね。アウターヒンジは人気があるけど、ダミーヒンジはウチはやりません」。
ダミーヒンジはパッと見はそれっぽく見えるが、近くで見ると質感の違いがまる分かりで、ダミーヒンジを支えているバネ機構がヘタるとドアの開閉でヒンジが浮いてしまったり、ボディと擦れることで塗装に傷が入ってしまうことも多い。
安いモノだから定期的に交換すればいい、という考えもあるかもしれないが、セブンカーズでは「どうせビンテージ仕様にするなら本物のアウターヒンジを」という考えなのだ。
ただしアウターヒンジは、純正のコンシールドタイプのヒンジから交換するだけでなく、スカットル(ヒンジが取り付けられるボディの三角形のパネル部分)の裏側に独自の補強を施しているそうだ。
「だからウチのアウターヒンジはドアが下がらないんです。普通にアウターヒンジにしちゃうとスカットルが負けてドアが下がってくるんですよ」。
高年式のミニで本物のアウターヒンジの使い心地を実現するには、やはり独自のノウハウが必要なのだ。
それでもドアボトムの角を丸めたりスライドウインドウにするのはハードルが高いので、一般的にはお勧めはしていないそうだ。リアウインドウを小さくしたり、サイドウインドウまで小さくするのも技術的には可能だが、費用対効果を考えるとそこまでやるなら本物のビンテージミニを購入した方がいい、というのが青木社長の考え。
ある程度まで仕上げることで、ビンテージミニがもつディテールの雰囲気は十分に感じ取れるし、乗り回すのにも気を使いすぎないビンテージ仕様を楽しむことができるのだ。
同じMkI仕様でも、オーナーの好みでここまで違う!
まずはバーチグレーのミニを紹介しよう。95年式のインジェクションATをベースにしたこのMkI仕様は、シンプルにミニのスタイリングの端正さと可愛さを引き立ててくれる。ちなみにこのバーチグレー、ミニの純正色ではないが当時のBMCで使われたボディカラーであり、絶妙な色調が魅力的だ。


フェンダーレス(オーバーフェンダーレスの略称)のボディは、ルーフも同色になっており、スタンダードなMkI仕様だが、エンブレムはモーリス・ミニクーパーを用いる。このあたりはオーナーの好みが反映される。



インテリアもオーバルのセンターメーターにセンターキー、スミスのタコメーター、モトリタのウッドステアリング、ブラウンのトリムでドアやダッシュ、シートをコーディネイトしている。シンプルで清潔感のある仕上がりはビンテージ仕様ならではの魅力だ。


もう一台、アイランドブルーのMkI仕様は、同じモーリスミニクーパーでもディープリムとオーバーフェンダーが迫力を感じさせる。しかもこちらは89年式のミニ1000がベースだ。


パワーユニットもSUツインキャブにオイルクーラーを装備し、軽量化の狙いもあってクーラーは取り外され、本気で走りを楽しむ仕様であることが伝わってくる。しかもこちらはMTだ。ATミニ専門店であるセブンカーズだけど、MTユーザーの常連客も少なくないのである。
シートも助手席は雰囲気重視のローバックバケットのコブラだが、運転席はレカロ。タイトなフルバケットを入れるも、ブラック基調のシックなカラーでインテリアとの調和を図りながら、ドライビングを快適なものにしている。



驚くべきは、この2台のMkI仕様、仕上げたのは今から10年以上も前なのだとか。それだけ下地からきっちりと仕上げられた丁寧な仕事と、この10年以上も大事に乗り続けているオーナーの愛情ぶりがうかがえるのだ。
このところ為替の影響もあってパーツの価格改定が目まぐるしく、なかなかビンテージ仕様のカスタム費用は目安が示しにくいと青木社長。
それでも一度に仕上げず板金塗装が必要な部分からモディファイしていくという手もある。あとからオーバーフェンダーやホイールを交換するなど、時間をかけてやればスタイリングの変化も楽しめる。
クラシックミニは飽きが来ないだけでなく、飽きないために少しずつ変化や進化を楽しめるクルマなのだ。