「ポールスミス・ミニ」は、イギリスを代表するファッションデザイナー、ポール・スミスと、同じくイギリスを象徴する小型車ローバー・ミニとのコラボレーションによって生まれた、特別なクラシックミニです。この車は1998年に限定で生産されたもので、クラシックミニの中でも非常に人気が高い限定車の一つとなっています。
クラシックミニは1959年にBMCによって発売されて以来、独特のコンパクトなデザインと高い走行性能で多くのファンを獲得しているクルマです。一方、ポール・スミスは1970年に自身の名を冠したブランドを立ち上げ、独創的で遊び心のあるデザインで世界的に成功を収めました。この両者のコラボは、「英国らしさ」と「スタイルの融合」を象徴するプロジェクトとして注目を集めました。
ポールスミス・ミニは、特に外観と内装のデザインにおいて、ポール・スミスの個性が色濃く表れています。
もっとも特徴的なのは「ポールスミスブルー」と呼ばれる特別な青色のボディです。この色はポール・スミス自身が選定したオリジナルカラーで、落ち着きのある中にも洗練された美しさを感じさせます。
これはポール・スミスがボディカラーを指示する際に上手く伝わらなかったため、自身が着ていたシャツの端をカットして渡したという逸話も残されています。また、ボンネットやリアのトランクを開けるとタペットカバーや燃料タンクはライムグリーンに塗装されており、ここにもポール・スミスらしい「遊び心」が見られます。
ボディカラーは他にもブラック、オールドイングリッシュホワイトがあり、ブラックは一番数が少ないと言われています。どれもオーバーフェンダーまで同色にペイントされているのも特徴です。
内装も細部までポール・スミスのこだわりが反映されています。シートには本革が使用されドアトリムと共にブラックで統一されてシックな雰囲気となっており、クラシックなデザインの中に現代的なセンスが取り入れられています。
ダッシュボードはボディカラーにペイントされていますが、グローブボックスの中にもライムグリーンが使われるなど、普段見えない部分にまで工夫が凝らされており、まさに「隠れたおしゃれ」が楽しめます。
この特別なミニは、1998年に日本市場向けを中心に限定で1,800台が生産されました。そのうち1500台が日本向けに輸出されています。
一方、もう一つのバリエーションとして、1台のみ製作のプロトタイプとして「マルチストライプ」モデルも存在します。これはポール・スミスのアイコニックなストライプ柄がボディ全体に施されており、アート作品のようなインパクトを持っています。このマルチストライプ柄は市販はされていませんがレプリカが何台か製作されています。

ミニという車自体がその後BMWにより新型へと進化していく中で、クラシックミニの終盤に登場したこのモデルは、ある意味「集大成」としての意味合いもあります。現代のファッションやデザインが自動車の世界にどのように取り込まれるかを示した、先駆け的な存在ともいえるでしょう。
ポール・スミス・ミニは、単なる車ではなく、デザインと機能、そして文化の融合体です。英国の伝統を尊重しつつ、新しい感性を取り入れたこの車は、今なお色あせることなく、多くの人々に愛され続けています。